ISBN:4406028781 単行本 旭爪 あかね 新日本出版社 2002/04 ¥1,890

「稲の旋律」と一緒に、「水車の見える丘」も届いたのですが、1頁読んだ「稲。。」に吸い寄せられ、ついこっちを先に読了。

こっからさきは、だらだらと稲の旋律のはなし。長いです。

この主人公のちかちゃんの前半生が、とても私に似ていたので、
つい感情移入してしまいました。

ちかちゃんは母親からピアノ奏者になって欲しいと期待され、その通りの人生を歩んだあげく、挫折して、会社もしくじり、最後はひきこもりに。

それが、東京近郊で自然農法で農業をいとなむお百姓さんとしりあい、たんぼのてつだいなどしているうちに、自分に自信をとりもどして、元気になっていく、という話でした。

千華ちゃんの造形は、臨床心理家の斉藤学の症例に出てくる、「ヴァイオリン人形」ちゃんとそっくりなのですが、ずっとリアルに迫ってきます。

もひとつ「私に似てる」と感じたのは、ちかちゃんの母の造形。
千華ちゃんの母は、なんと福島県いわき市の、海のあたり(小名浜かな)の農家の出で、両親夫婦は所帯を持つ際に、親から猫の額ほどの田畑をわけてもらって分家した、ささやかな小農です。
でも父(ちかちゃんの祖父)は戦死、あとは母一人、子一人でちいさな農家に暮らす。。

この符合をみて「おお!」とうなってしまいました。

千香ちゃんの母は昭和15年。
千香ちゃんは昭和45年。
それぞれ、私と母より、同じくらいの年回りで、下の設定でした。


我が母の母(私の祖母)は小さな田畑を分けてもらって、お婿をもらって分家したごく小農です。母の父(祖父)はさっさと戦死、以後は母一人、子一人のくらし。

違っていたのは、ちかちゃんの母の家は生活がきつく、百姓暮らしを嫌い呪っていたこと。
我が母のくらしぶりは、きわめてつましいながら、遺族年金と田畑の作物で、暮らしに困ると言うことがなかった、と聞いてたこと。

千香ちゃんの母の家のあたりは空襲があり、けっこう暗い戦時暮らしだったのが、我が母はなにせ「背戸がろう」の近くなもんでくそ田舎。
空襲のくの字もなかったそうな。

千香ちゃんの家は親族の家まで12キロ先。なかなか、助けもすぐにえられない。
我が母の家は、本家まで400メートルもない?すぐそこです。

千香ちゃんは父がないので、学校でもじゃけんに扱われた。
我が母は、一村まるまる戦死者のない家はないくらい。
だから学校で差別の理由になりようがない。
みんな父か祖父か兄か伯父か、いないんだし。
どん百姓の男なんて、そんな風に使い捨てにされたんですね。

で。

ディーテイルはちがうものの、本質は一緒。

母(と父)の希望をかなえるのが自分の使命と思ってたので、
いざ自分の希望はなに?と思うと、なにも出てきようがなかったこと。

ちかちゃんは希望に添えないことが分かった時点でそうなり、私は親の希望を叶え終わった時点で、はて、どうしようとなりました。

私も世間のレールに従って会社に入りましたが、そこで体がぼろぼろになり、退職。

私がちかちゃんよりも人生に長けていたのは、ちかちゃんは「無職の30歳の親がかりのひきこもり」になったのにたいし、わたしは
「専業主婦」というかくれみのを手に入れたこと。

当時会社がつとまりきらなかったのは、私の精神の弱さ、と思ってましたが、いまからみれば、あのタバコ臭の充満する職場で12時間勤務した後は、たっているのも苦しいほど疲労してたんですよね。

精神にだけ帰責するのは、違いますね。

ちかちゃんも、もしかしたら、錦糸町の印刷会社では空気が悪くてつとまらなくても、房総の農村で自然農だったら?
だからかも。
なんてね。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
なにがいいたかったのかというと。。。。。

ちかちゃんは、お百姓の広瀬さんに「人格に「核」がない」
といわれるんです。

これ、ずっきんときました。

30中ば頃から、私も人生に核がないのを感じ、自分で模索するような人生でした。

あの頃に比べれば、だいぶ人間らしくなってきたと思うけど、一方でまだまだ、、、のところがあります。

それを自覚したのと。。

もうひとつは、広瀬さん自身も、34歳から10年で、自分の核をつくってきたようなものだ、というのです。

天職を邁進しているような人でも、「核」はかくも自分で作っていく者なのかと。

ちょっと、安心でもありました。

そんなわけで、ほかの方におすすめといえるかはともかく、私にとって、今すごくよかったといえる、小説でした。

コメント

せきやん
せきやん
2007年12月23日12:46

いつも楽しく教えていただいてます。
あわただしき日々に流されてるお恥ずかしさは
検閲されてる分があり、逃げ回ってる自分を恥じました。
矜持してるつもりの鋼鉄の意志も場合によってはガラスの心臓で
グラッとしていました。
「芯」と田舎のノスタルジーを思い起こさせていただき御礼を申し上げます。

どん太
どん太
2007年12月23日21:45

どうなさったかなあ、と心待ちにしてました。
また、例のストーカー(失礼!)があれこれ言ってきてるんでしょうか。
困った話ですね。。。

田舎のノスタルジー、つきることがないのです。
郷土への感情って、ぬきがたいものがあります。
せきやんさまも、そうですね。日記読むたび、伝わってきます。
ありがとうございます。。。

蜜柑
蜜柑
2007年12月24日14:53

私も祖母からの期待を受け、でも応えられないので逃げました。それは挫折感となって私の中に残っているような気がします。
引きこもりでもあったし、それに実家もほんとう〜に田舎だし。
畑も田んぼもあります(た)しね。

すごく気になったので、図書館にリクエスト出しました。

私も自分の「核」を探している最中です。

どん太
どん太
2007年12月26日14:20

蜜柑さま

蜜柑さまも期待を受けて、挫折感をもって生きたおひとりなんですね。
こうやって書いてみると、そういう人、けっこういるのかな、って気がしてきました。

>私も自分の「核」を探している最中です。

おお、なんとなく、同じ課題で人生を歩んでる方がいるようで、うれしくなりました。

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